【Ferienjob】
Ferienjob(フェーリエンジョプ)(男):学生アルバイト …… ご存知の方も多いと思うが、アルバイトとはドイツ語で「仕事」を指す。学生などが休暇中に行う小遣い稼ぎなどはこのFerienjobを使う。Ferienarbeitという語もあるが、これには休暇中の課題(宿題)の意味もあるので日本語の学生アルバイトならFerienjobと表すのが適切。最近日本では、いい大人でもアルバイト待遇の人が多く、Ferienjobを単に「アルバイト」とは訳せなくなってきている。悲ピー。
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多くの人がそうであったように、わたしも社会人になる前にはいくつかのアルバイトを経験した。
生まれて初めてのアルバイトは、高校生の時に卓球部の仲間と一緒にやった、近在の電報局での年賀電報の配達のアルバイトだった。部員のお母さんが電報局で働いていたことから湧いてきたFerienjobだった。電報局に詰めていて、電報が届いたら住所を確認し自転車に鞭当てて年の瀬の空気を突っ切って疾走していた。遊軍的な動きの仕事で、結構楽しかった。この頃から将来フリーランスで働く下地が磨かれていたのかも知れない。
それ以降、某有名スーパーの家電売り場で扇風機担当の売り子をしたり、某有名百貨店の缶詰め売り場でお中元商戦に参戦したり、家庭教師のようなこともしたし、某有名通信教育で現代国語の添削をしたり、レコード流通会社で埃にまみれながら返品整理を担当したりもした。
いちばんきつかったのは、某クリーニング「工場」での流れ作業だった。このクリーニング工場は主にリネンのクリーニングを請け負っていて、具体的に何が回ってくるかといえば大抵は近在のラブホテルのシーツだった(ロゴ入り)。洗濯の終わったシーツを伸ばして大型のシーツ用アイロンのローラーにかける仕事だった。これが息を抜く暇がなくて、これほどみっちり働いたことは今日に至るまでない。フリーの翻訳者になってどんなにタイトな仕事が来ても、息を抜く余裕は正直言ってたっぷりとある(でなければ、ろくな仕事にならない)。身体は辛かったが、近在のラブホテルの名前は沢山覚えた。ただし、その知識が役立つことは一度もなかった (^m^)。
学生時代のバイトでいちばん楽しかったシーンのことを思い出した。
それは、大学一年生か二年生の冬休みのバイトで、兵庫県K市にある有名スーパーDでのバイトだった。以前尼崎の我が家の隣に住んでいたご家族がK市に引っ越していき、その奥さん(つまりわたしにとっては隣のおばちゃん)がスーパーDでパートをしていらしたのだった。真面目な子を探しているからとわたしに話が回ってきた。わたしは、幼少時から大人を騙すことにかけては可成りの才能を発揮していたのでこれは当然であった。
このスーパーDは後に某プロ野球チームを所有することになるのだが、その後経営不振でプロ野球チームからは手を引いた。そのプロ野球チームは、今では島帰りの男の二の腕に入れられた入れ墨のような二本ラインをユニフォームの腕に入れていることで知られている。元々は関西の電鉄会社のチームだったのだが、巡り巡って今は日本の西の方の島にその本拠を置いている。わたしがバイトしていたのは、まだスーパーDがプロ野球チームとは何の関わりもなかった時代である。
夏休みにそのスーパーDの家電売り場で扇風機を売っていた。そして、その続きで冬休みには「受け渡し場」での仕事をさせて貰った。冬には扇風機を売らない方針だという理由である。冬の受け渡し場は吹きっ晒しでたいへん寒かったが、仕事が多かったのでそれほど寒い思いもしなかった。一個あたりは小さい荷物が大量に入荷したようなとき、例えば細長い段ボール箱に入ったネギが2トン車一杯着いたと言うようなときは、トラックの扉からパレットやケージの位置まで、その辺にいる男達がジグザグに向かい合って並び、品物がジグザグに飛んで行くように、一種のバケツリレー方式で荷受けするのが面白かったのだが、もっと楽しく働いたシーンがある。
受け渡し場のすぐそばに鮮魚売り場のバックヤードがあった。品出しの担当者が休みだとかで、夕飯の買い出し客の増える時間帯、すなわち三時の休憩の後から五時まで、わたしともうひとり気の小さそうな美形の学生アルバイト君とが二人応援に入った時のことだった。
鮮魚をパックにして値札シールを貼ってトレーに入れる担当のおばはんのところに連れて行かれた。
おばはん:「あんたら根性あるんやろな!」
樅の木:「あります!」
相棒:「は、はい……」
おばはん:「(美形の方を見ながら)大丈夫かいな? 元気な方の兄ちゃんも口だけとちゃうやろなあ?」
なにやら意味もなくアグレッシブなおばはんであった。「兄ちゃん、タイヤキに鯛入ってるか?」とか「なんやったら鉄板焼きにテッパン入れたろか!」とか叫んだら似合いそうなおばはんであった(謎爆)。とにかく、そこにおいてある魚を場所聞きながら品出しせいと言われ、わたしと気の小さそうな美形の相棒は鮮魚売り場のバックヤードを駆けずり回り始めた。
最初はもちろん慣れていないので仕事も遅い。
「ちゃっちゃとせんと、いつまで経っても終わらへんで!」
相棒は最初小さくなっていたが、だんだん機嫌が悪くなってきていた。顔を見ればわかる。この気の小さい相棒ですらそうなのであるから、わたしはもっと仏頂面をしていたに違いないが、鏡を見る暇もなかったので事実は永遠に謎である。まあ、「あの人いっつもあんな悪態ばっかりついてんねん。気にしたらあかんよ」と教えてくれた別のパートの若奥様が「あんたえらい仏頂面してるで~」と言ってはいたが、目が悪いだけかも知れないではないか。
ちょうど隣り合ったところで品出しをしているときに、相棒がわたしに言った。
相棒:「あのおばはん、腹立つ~」
樅の木:「仕事でなかったらケツ蹴ってるとこやな」
相棒:「ひと泡吹かせたりたいなあ」
樅の木:「戦うか?」
相棒:「戦うって?」
樅の木:「思いっきり早よう品出しして、あのトレーの山空っぽにして、『おばはん早よせんかい』て言うたるとか」
相棒:「できるかなあ?」
樅の木:「できるかどうかより、やりたいぞ俺は」
相棒:「言えてる! やろ!」
それから青年樅の木と気の小さそうな美形の相棒は、青筋立てて稲妻のように鮮魚バックヤード内を三倍速ぐらいで縦横無尽に走り回った。冬の鮮魚売り場バックヤードという、暖かさの欠片もないような環境ではあったが、わたしと相棒は珠の汗を顎先から滴らせながら(もちろん品物にはかからないように気を付けていた)、顔を真っ赤にしながら息を弾ませていた。すべては、「おばはん早よせんかい」とひとこと言ってやるためにであった。
おばはんの脇に積まれたトレーの山が低くなる。富士山が八甲田山になり、さらに筑波山になり若草山へと変わっていく。すると、だんだんおばはんの眼の色が変わってきた。残されたトレーの枚数が5枚前後になってからがまさに鍔迫り合いであった。丁度今のセ・リーグの三位争いのようなものだ。品物の陳列場所がわかっている場合は、ひゅっと飛んでいってしゅっと戻ってくる。トレーはどんどん減って行く。しかし、陳列場所がわからない場合は場所を教えて貰ったりして時間がかかり、残り2枚だったトレーが6枚に増えていたりする。
「あ、あんたら、あんたらなあ…」
おばはんは何か言おうとしているが、仕事中に無駄口叩いている暇はないのだ。それくらいのモラルもわかっとれへんのか? と、わたしも相棒もそれには取り合わずに、ただひたすらにトレーを抱えて飛んだ。周囲もこの鍔迫り合いの意味がわかっているらしく、仕事をしながらちらちらとこちらの様子を窺っている。興味津々の「頑張れ!」の視線を背中に感じて、青年樅の木と相棒は燃えた。
2枚残ったトレーにわたしと相棒が同時に飛びつく。品出し場所に飛ぶ。品出しして戻る。トレーは1枚も残っていない。(やった!)と思ったら、おばはんも残っていなかった。
「お~い、ご苦労さん。もう五時やから上がってええで~」
鮮魚主任のお気楽な声が聞こえた。タイムアウトだった。残念!
トレー溜まりでしゃがみ込んでぜいぜい言っているわたしと相棒。そこに件のおばはんが疲れ果てた顔をしてやって来た。
おばはん:「もう、あんたらにはかなわんわ~」
樅の木:「惜しかった……」
相棒:「もうちょっとやったのに……」
おばはん:「わたしここで働いてて初めて、こんな時給でやってられん、て思たで。ほんま、たいがいにして欲しいわあ」
主任:「いや~、二人ともえらい機敏やったなあ。また来てくれるか?」
おばはん:「もう来んといて! いつものぼんくらでええわ!」
一同:爆笑 (^o^)/
翌日、いつものぼんくら氏が「バイトの方がよっぽど役に立つとか言われてえらい災難や」とぼやいているらしいと言う噂を聞いた。実際、わたしと相棒が応援に入った日の夕方の鮮魚売り場の売り上げはいつもより良かったと言われた。わたしと相棒は、『今度こそやるぞ!』と固く誓って、仕事が終わった後、売り場に回って鮮魚の陳列位置を確認するほど入れ込んでいたのだが、いつものぼんくら氏はそれ以降休まずに仕事に来ていた。リベンジの機会に恵まれないまま、受け渡し場で件のおばはんを見かけた時に相棒と二人で手を振ってやったらおばはんは照れていた。
そして冬休みはあまりに短かった。しかし、件のおばはんはもはや憎たらしくはなくなっていた。
あれから三十年以上が経つ。いまではわたしも相棒も、当時の件のおばはんよりも年かさになった。件のおばはんはまだ元気で生きているのだろうか? あの気の小さな美形の相棒は、今頃どこで何をしているのだろう?
北海道の女房の実家から送られてきた鮭一本の勇姿を見ながら頭をよぎった、遠い日の想い出であった……
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